皮膚悪性腫瘍 〜診療ガイドライン

 

Ⅳ.補  遺

はじめに

皮膚リンパ腫診療ガイドライン2011 年改訂版は日本皮膚科学会誌2012 年6 月号に簡略版が掲載されており1),完成から既に3 年近くが経過している。この間いくつかの治療法について,本邦で保険承認されたり,使用経験が蓄積されたりしている。ガイドラインは実際の臨床の現場で治療方針を決定する際に参照されるものであり,現在使用可能な治療法について記載がないことは,有効な治療法の選択の機会を奪うことになりかねない。一方,ガイドラインはエビデンスレベルの高い文献を参照して作成されるべきものであり,推奨度については作成委員会によって慎重に検討する必要がある。そこで本稿では,この3 年間に認可された治療法を中心に,主に臨床試験で判明した治療効果や副作用を紹介することとし,治療アルゴリズムでの位置づけや推奨度については,次回のガイドライン改訂の際に決定することとした。

a)ボリノスタット

ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬の1 つであり,2011 年7 月に本邦で認可されたため,現行ガイドラインでも記載されている(CQ10)。わが国では2008 年9 月から皮膚T 細胞リンパ腫(CTCL)を対象に第I 相試験が実施された2)。病期ⅡB 以上の菌状息肉症患者6 名に投与され,腫瘤新生や痒みの抑制などで一定の効果を示したものの,寛解(完全寛解(CR)あるいは部分寛解(PR))を導入できた症例はなかった。血中濃度や副作用は海外のデータと大きく異なることはなく,安全性は確かめられた。従来の抗癌剤との大きな違いは,治療効果が患者ごとに大きく異なることと,同一患者の皮膚病変においても効果発現のあるものとないものがあることである。本邦での臨床試験の結果からは単独療法での寛解導入は難しいと思われ,紫外線療法や局所放射線,レチノイドなどの他の治療法を併用しながら,PR もしくは長期の安定状態(SD)を治療目標に設定すべきと思われるが,どの治療の併用が最適か明確な結論は出ていない。副作用として,肺塞栓症および深部静脈血栓症,血小板減少症,貧血,悪心・下痢などの消化器症状,高血糖,腎障害,全身倦怠感などが挙げられる。

b)モガムリズマブ

ヒト化抗CCR4 モノクローナル抗体であり,2012 年5 月に再発または難治性のCCR4 陽性成人T 細胞白血病・リンパ腫(ATLL)の治療薬として発売された。2014 年3 月からは再発または難治性のCCR4 陽性の末梢性T 細胞リンパ腫(PTCL)およびCTCL に適応が拡大されている。さらに,2014 年12 月18 日には,化学療法未治療のCCR4 陽性のATLL を適応症とする一部変更承認を取得している。本邦で実施されたCCR4 陽性の再発または再燃のATLL に対する臨床第Ⅱ相試験では,総合最良効果での奏効率50.0%(26 例中CR 8 例,PR 5 例)と高い臨床効果が得られ,その中でも特に末梢血病変(100%),皮膚病変(8 例中5 例)での効果が高いことが報告された3)。但し,本試験は1 レジメン以上の化学療法を受け,直近の化学療法により奏効(CRまたはPR)が得られた後の,再発または再燃の急性型,リンパ腫型及び予後不良因子のある慢性型を対象として,単剤投与で行われたものである。再発・難治例での他剤との併用や,くすぶり型に対するまとまったデータはないので,使用にあたっては慎重に適応を判断する必要がある。一方,本試験では非血液毒性として,投与時反応(89%),発熱(82%)に次いで高頻度(63%)で皮膚障害が報告されている。Grade 3 以上が5 例あり,スティーブンス・ジョンソン症候群などの重症例もみられている。皮膚障害と本剤の投与回数との関連が示唆されており,また,保険適応である8 回の投与期間のうち,多くの例で5 回目以降に皮膚障害が発症している。投与にあたっては皮膚障害に対する十分な注意が必要である。

また,2014 年12 月には,化学療法未治療のCCR4 陽性のATLL にも適応が拡大された。適応拡大の根拠となった臨床試験の対象は,化学療法未治療の急性型,リンパ腫型及び予後不良因子のある慢性型であり,またモガムリズマブとVCAP/AMP/VECP 療法との併用で試験が行われた。化学療法未治療例における単剤での使用経験はなく,くすぶり型や予後不良因子のない慢性型を対象とした試験は行われていない。

本邦におけるCCR4 陽性の再発のPTCL,CTCL を対象とした国内臨床第Ⅱ相試験においては,37 例(PTCL 29 例,CTCL 8 例)に対してモガムリズマブが投与され,総合最良効果での奏効率は35%(CR 5 例,PR 8 例)であった。CTCL の8 例に対する臨床効果はPR 3 例,SD 4 例,増悪(PD)1 例であった4)。本試験においても非血液毒性として,発熱(30%)のほか皮膚障害(51%)の頻度が高かった。Grade 3 以上は4 例でATLL の試験と比較すると頻度は若干低いものの,注意すべき副作用である。また,適応は再発または難治例に限られており,第一選択の治療ではないことに留意すべきである。

c)インターフェロン- γ

以前は2 種類のインターフェロン- γ製剤が菌状息肉症に対して承認,使用されていたため,現行ガイドラインにも記載されている(CQ8)。以前に承認されていた2 剤はすでに販売が中止されているが,腎臓癌,慢性肉芽腫症に対して保険承認されていた遺伝子組換え型インターフェロン- γ -1a 製剤の臨床試験が本邦で行われた5)。15 例中11 例でPR が認められ,以前のインターフェロン- γ製剤と遜色のない成績が得られた。その結果,2014 年5 月より菌状息肉症,Sézary 症候群に点滴静注投与の適応拡大となっている。副作用としては発熱,全身倦怠感などのインフルエンザ様症状が多い。そのほか間質性肺炎,うつ,腎障害,血球減少などを生じる可能性がある。

d)塩酸ゲムシタビン

菌状息肉症,Sézary 症候群に対する塩酸ゲムシタビンの効果は以前から報告されていたため,現行ガイドラインでも記載があるものの(CQ11),本邦では悪性リンパ腫に対して未承認であった。2012 年10 月に公知申請が行われ,2013 年2 月に「再発又は難治性の悪性リンパ腫」への効能・効果追加が承認された。ガイドライン作成後の文献としては,T3 またはT4 の再発または難治性の菌状息肉症19 例に単剤で用いられ,奏効率48% (CR 3 例,PR 6 例)であったというイタリアからの報告がある6)

e)ブレンツキシマブ・ベドチン

CD30 は未分化大細胞リンパ腫(ALCL)やホジキンリンパ腫の腫瘍細胞が発現する表面抗原で ある。菌状息肉症の腫瘍細胞が大細胞転化を起こした場合も,CD30 を発現することがある。ブレンツキシマブ・ベドチンはブレンツキシマブ・ベドチンは抗CD30 抗体に微小管を破壊するモノメチルオーリスタチンE を組み合わせた抗体薬物複合体(antibody-drug conjugate, ADC)である。本邦での第Ⅱ相試験では,ホジキンリンパ腫9 例中CR5 例,PR1 例,ALCL5 例中CR4 例,PR1 例という成績であった7)。この結果,本邦では2014 年1 月に,CD30 陽性の再発及び難治性のALCL,ホジキンリンパ腫を対象に保険適応となっている。原発性皮膚ALCL に対する第一選択は切除や電子線照射であるが,皮膚外病変を伴ってきた場合,もともと全身性ALCL であった可能性があり,その場合は治療経過によって使用を考慮してもよい。菌状息肉症については,現在米国で臨床試験が行われている段階で,保険適応はない。副作用としては血球減少のほか,末梢神経障害,進行性多巣性白質脳症などが報告されている。

f)SMILE 療法

節外性NK/T 細胞リンパ腫,鼻型(extranodal NK/T-cell lymphoma, nasal type : ENKL)の未治療Ⅳ期・初発治療後再発または難治例を対象としたSMILE 療法の第Ⅱ相試験において,38 例を解析した結果,総合効果でCR 17 例(45%),PR 13 例,SD 1 例,PD 4 例,早期死亡3 例という結果が報告された8)。プライマリーエンドポイントである奏効割合(CR およびPR)79%,1 年の全生存率55%であり,それぞれヒストリカルコントロールの35%,20%未満と比較して優れた成績であった。有害事象としてほぼ全例でgrade 4 の好中球減少がみられ,また非血液毒性として61%に感染症を合併した。87 例の後ろ向き解析でも,5 例の敗血症関連死亡が報告されており9),施行にあたっては,血球減少と感染症に厳重に注意する必要がある。また,臨床試験の適格基準を参考に,適合しない患者については薬剤を大幅に減量して行うか,実施しないことも考慮すべきである。第Ⅱ相試験においては,その途中で,重篤な感染症を合併した症例で高率に認められたリンパ球数低値例(登録時500/mm3 以下)を除外するプロトコール改訂が行われており,実際の施行にあたってもこのような症例は対象とするべきではない。

文献

1) 菅谷 誠,河井一浩,大塚幹夫ほか:皮膚リンパ腫診療ガイドライン2011 年改訂版,日皮会誌,2012; 122: 1513-1531.

2) Wada H, Tsuboi R, Kato Y, et al: Phase Ⅰ and pharmacokinetic study of the oral histone deacetylase inhibitor vorinostat in Japanese patients with relapsed or refractory cutaneous T-cell lymphoma, J Dermatol, 2012; 39: 823-828.

3) Ishida T, Ito A, Sato F, et al: Defucosylated anti-CCR4 monoclonal antibody (KW-0761) for relapsed adult Tcell leukemia-lymphoma : a multicenter phase Ⅱ study, J Clin Oncol, 2012; 30: 837-842.

4) Ogura M, Ishida T, Hatake K, et al: Multicenter phase Ⅱ study of mogamulizumab (KW-0761), a defucosylated anti-CC chemokine receptor 4 antibody, in patients with relapsed peripheral T-cell lymphoma and cutaneous T-cell lymphoma, J Clin Oncol, 2014; 32: 1157-1163.

5) Sugaya M, Tokura Y, Hamada T, et al: Phase Ⅱ study of i.v. interferon-gamma in Japanese patients with mycosis fungoides, J Dermatol, 2014; 41: 50-56.

6) Zinzani PL, Venturini F, Stefoni V, et al: Gemcitabine as single agent in pretreated T-cell lymphoma patients: evaluation of the long-term outcome, Ann Oncol, 2010; 21: 860-863.

7) Ogura M, Tobinai K, Hatake K, et al: Phase Ⅰ/Ⅱ study of brentuximab vedotin in Japanese patients with relapsed or refractory CD30-positive Hodgkin’s lymphoma or systemic anaplastic large-cell lymphoma, Cancer Sci, 2014; 105: 840-846.

8) Yamaguchi M, Kwong YL, Kim WS, et al: Phase Ⅱ study of SMILE chemotherapy for newly diagnosed stage Ⅳ, relapsed, or refractory extranodal natural killer (NK) /T-cell lymphoma, nasal type: the NK-Cell Tumor Study Group study, J Clin Oncol, 2011; 29: 4410-4416.

9) Kwong YL, Kim WS, Lim ST, et al: SMILE for natural killer/T-cell lymphoma: analysis of safety and efficacy from the Asia Lymphoma Study Group, Blood, 2012; 120: 2973-2980.