リスク分類からみた臓器がん別のレジメン一覧

第1 章において,がん患者の悪心・嘔吐のメカニズム,基本的な予防管理,治療法についての推奨グレード,そして解説では日常診療のための推奨治療を提示した。しかし,実際の臨床では臓器別がん患者の診療を行うことが多く,また臓器により病態はさまざまである。そこで,会員ならびにがん治療に従事する医療者のために,対象臓器がんの代表的な薬物療法レジメンを提示し,催吐性リスクごとに整理し表にまとめた。患者の状態によりレジメンは多少変更されると考えられる。わが国で標準的とされるレジメンを提示しているので,類似したレジメンを使用する場合の参考にしていただきたい。また,本章に記述のない臓器がんは第1 章を参照していただきたい。薬物療法に放射線治療を併用する場合も,この分類に準ずる。

作成形式

①エビデンスに基づいた代表的な制吐療法を提示した。

②予防投与が奏効しなかった場合は,第1 章の CQ 6を参照していただきたい。

②薬物療法のレジメンに関する文献の構造化抄録は作成していないので,日本癌治療学会がん診療ガイドライン(http://www.jsco-cpg.jp)または,そのもととなる臓器がんごとの診療ガイドラインを参考にしていただきたい。

目次:

1. 肺がん

リスク レジメン 対象疾患 薬 剤
高度リスク CDDP/CPT-11 小細胞肺がん,
非小細胞肺がん

CDDP 60 mg/m2(d1),

CPT-11 60 mg/m2(d1,8,15):q4w

CDDP/S-1 非小細胞肺がん CDDP 60 mg/m2(d8),
S-1 80〜120 mg/day(d1-21):q4w,q5w
CDDP/ETP 小細胞肺がん CDDP 80 mg/m2(d1),
ETP 100 mg/m2(d1-3):q3w
CDDP/GEM 非小細胞肺がん CDDP 80 mg/m2(d1),
GEM 1,000 mg/m2(d1,8):q3w
CDDP/VNR 非小細胞肺がん CDDP 80 mg/m2(d1),
VNR 25 mg/m2(d1,8):q3w
CDDP/DTX 非小細胞肺がん CDDP 80 mg/m2(d1),
DTX 60 mg/m2(d1):q3w

CDDP

/ペメトレキセド

非小細胞肺がん CDDP 75 mg/m2(d1),
ペメトレキセド 500 mg/m2(d1):q3w
中等度リスク CBDCA/ETP 小細胞肺がん CBDCA(AUC5)(d1),
ETP 80-100 mg/m2(d1-3):q3-4w
CBDCA/PTX 非小細胞肺がん CBDCA(AUC6)(d1),
PTX 200 mg/m2(d1):q3w
CBDCA/nab-PTX 非小細胞肺がん CBDCA(AUC6)(d1),
nab-PTX 100 mg/m2(d1,8,15):q3w
CBDCA/S-1 非小細胞肺がん CBDCA AUC5 (d1),
S-1 80〜120 mg/day(d1-14):q3w
アムルビシン 小細胞肺がん,
非小細胞肺がん
40〜45 mg/m2(d1-3):q3w
セリチニブ 非小細胞肺がん 750 mg/body
クリゾチニブ 非小細胞肺がん 500 mg/body
軽度リスク ノギテカン
(トポテカン)
小細胞肺がん 1.0 mg/m2(d1-5):q3w
DTX 非小細胞肺がん 60 mg/m2(d1):q3w
GEM 非小細胞肺がん 1,000 mg/m2(d1,8):q3w
S-1 非小細胞肺がん 80-120 mg/body(d1-28):q6w
UFT 肺がん 300〜600 mg/body
ペメトレキセド 非小細胞肺がん 500 mg/m2(d1):q3w
アテゾリムマブ 非小細胞肺がん 1200 mg/body (d1):q3w
アファチニブ 非小細胞肺がん 40 mg/body
アレクチニブ 非小細胞肺がん 600 mg/body
最小度リスク VNR 非小細胞肺がん 25 mg/m2(d1,8):q3w
ゲフィチニブ 非小細胞肺がん 250 mg/body
エルロチニブ 非小細胞肺がん 150 mg/body
オシメルチニブ 非小細胞肺がん 80 mg/body
ニボルマブ 非小細胞肺がん 240 mg/body(d1):q2w
ペムブロリズマブ 非小細胞肺がん 200 mg/body(d1):q3w
ベバシズマブ 非小細胞肺がん
(扁平上皮がんを除く)
15 mg/kg:q3w
ラムシルマブ 非小細胞肺がん 10 mg/kg (d1):q3w
解説 術後再発・進行肺がんにおける一次治療は,白金製剤(CBDCA,CDDP)をキードラッグとした併用療法が主体であり,中等度・高度リスク群に分類される。CBDCA 併用レジメンは中等度または高度リスクに分類され,5-HT3 受容体拮抗薬,デキサメタゾンを中心に,必要時はアプレピタントを併用し,悪心・嘔吐対策を行う。一方,二次治療以降のレジメンでは,白金製剤を含まない場合が多く,アムルビシンおよびクリゾチニブ以外はすべて軽度もしくは最小度リスクに分類される。
注意:
上記参考表に掲載した抗がん薬の投与量・投与方法・投与スケジュールは,制吐薬を適正に使用するための参考レジメンである。抗がん薬は,抗がん治療に関する他の診療ガイドライン等を確認のうえ,適正に使用をすること。

2. 消化器がん

リスク レジメン 対象疾患 薬 剤
高度リスク 5-FU/CDDP 食道がん 5-FU 800 mg/m2/24h (d1-5),
CDDP 80 mg/m2/2h (d1):q4w
S-1/CDDP 胃がん S-1 80 mg/m2(d1-21),
CDDP 60 mg/m2(d8):q5w
FOLFOXIRI*1 大腸がん CPT-11 165(150)mg/m2/1h,l-LV 200 mg/m2/2h,
l-OHP 85 mg/m2/2h,5-FU ci 3,200 mg/m2/48h:q2w
FOLFIRINOX*1 膵がん l-OHP 85 mg/m2/2h, l-LV 200 mg/m2/2h,
CPT-11 180 mg/m2/1.5h, 5-FU bolus 400 mg/m2, 5-FU ci 2,400 mg/m2/46h:q2w
中等度リスク GEM/CDDP*2 胆道がん GEM 1,000 mg/m2(d1,8),
CDDP 25 mg/m2(d1,8):q3w
FOLFIRI*3 大腸がん l-LV 200 mg/m2/2h,CPT-11 150 mg/m2/2h,
5-FU bolus 400 mg/m2
5-FU ci 2,400〜3,000 mg/m2/46h:q2w
IRIS*3 大腸がん S-1 80〜120 mg/body(d1-14),
CPT-11 125 mg/m2/1.5h(d1,15):q4w
FOLFOX 大腸がん mFOLFOX6:l-LV 200 mg/m2/2h,
l-OHP 85 mg/m2/2h,
5-FU bolus 400 mg/m2
5-FU ci 2,400〜3,000 mg/m2/46h:q2w
TAS-102 大腸がん 70 mg/m2(d1-5,d8-12):q4w
XELOX 胃がん,大腸がん カペシタビン 2,000 mg/m2/day (d1-14),
l-OHP 130 mg/m2/2h(d1):q3w
SOX 胃がん,大腸がん S-1 80〜120 mg/body(d1-14),
l-OHP 130 mg/m2/2h(d1):q3w
GS*4 膵がん GEM 1,000 mg/m2(d1,8),
S-1 60〜100 mg/body(d1-14):q3w
GEM/nab-PTX*4 膵がん GEM 1,000 mg/m2(d1,8,15),
nab-PTX 125 mg/m2(d1,8,15):q4w
CPT-11 胃がん,大腸がん 100 mg/m2〔d1,8,15,(22)〕:q5-6w,
or 150 mg/m2〔d1,15,(29)〕:q5-6w
イマチニブ 消化管間葉系腫瘍 400 mg/day
軽度リスク 5-FU/l-LV 大腸がん,胃がん RPMI:5-FU bolus 600 mg/m2
l-LV 250 mg/m2/2h (d1,8,15,22,29,36): q8w
sLV5-FU2:l-LV 200 mg/m2/2h,
5-FU bolus 400 mg/m2
5-FU ci 2,400〜3,600 mg/m2/48h:q2w
MTX/5-FU 胃がん MTX 100 mg/m2/3h(d1),
5-FU bolus 600 mg/m2 (d1),
LV 10 mg/m2×6(d2): q1w
GEM 膵がん,胆道がん 1,000 mg/m2(d1,8,15):q4w
PTX 胃がん 80 mg/m2(d1,8,15):q4w or 210 mg/m2(d1):q3w
nab-PTX 胃がん 100mg/m2(d1,8,15):q4w or 260 mg/m2(d1):q3w
DTX 胃がん,食道がん 60〜70 mg/m2:q3w
経口フッ化ピリミジン
(S-1,UFT,
カペシタビンなど)
胃がん,大腸がん,
膵がん,胆道がん

S-1:80〜120 mg/body(d1-28):q6w
UFT:300〜600 mg/body
カペシタビン:3,000〜4,800 mg/day(d1-14):q3w

スニチニブ 消化管間質腫瘍 50 mg/body(d1-28):q6w
膵神経内分泌腫瘍 37.5 mg/body
最小度リスク アフリベルセプトベータ 大腸がん 4 mg/kg(d1):q2w
エベロリムス 膵神経内分泌腫瘍 10 mg/body
セツキシマブ 大腸がん 初回 400 mg/m2
維持 250 mg/m2(d1):q1w
ソラフェニブ 肝臓がん 800 mg/body
トラスツズマブ 胃がん 初回8 mg/kg,維持6 mg/kg(d1):q3w
ニボルマブ 胃がん 240 mg/body(d1):q2w
パニツムマブ 大腸がん 6mg/kg(d1): q2w
ベバシズマブ 大腸がん 5〜10 mg/kg(d1):q2w
ラムシルマブ 胃がん,大腸がん 8 mg/kg(d1):q2w
レゴラフェニブ 大腸がん 160 mg/body(d1-21):q4w
解説 消化器がんのキードラッグはフッ化ピリミジン系薬剤であり,単剤あるいはそれを含む併用療法が標準療法として使用される。原則としてCDDP を含む併用療法は高度リスク,イリノテカン,オキサリプラチンを含むレジメンは中等度リスク,その他は軽度・最小度リスクとして対応するが,すべてのレジメンで原則が当てはまるわけではなく,下記に示すように3剤併用や分割投与などレジメンの特性に応じた対応が必要である。
*1
FOLFOXIRI とFOLFIRINOX は,原則通りであれば中等度リスクであるが,FOLFIRINOX に関しては,その催吐性の高さから国内第Ⅱ相試験もNK1受容体拮抗薬を併用して行われており,海外でもNK1受容体拮抗薬の使用が推奨されている。FOLFOXIRI も類似レジメンであり,海外の多くの試験で高い催吐性リスクが報告されているため,この両レジメンは高度リスクとした。
*2
胆道がんに対するGEM/CDDP(CDDP 25 mg/m2)は,CDDPを含むため原則通りであれば高度リスクであるが,臨床試験の結果では軽度リスクであるGEM 単剤とGrade 3 以上の嘔吐に大きな差はなく,ALL Grade でも最大20%程度の差しか報告されていないので,このレジメンは中等度リスクとした。
*3
CPT-11 を含む多剤併用レジメンの催吐性リスクは,l-OHP を含む多剤併用レジメンの催吐性リスクより高いという報告が多く(直接の比較試験はない),中等度リスクではあるが,特に慎重な対応が必要である。
*4
GEM と他の軽度リスクの薬剤の併用療法は,原則通りであれば軽度リスクであるが,国内第Ⅱ相試験ではGEM 単剤でも嘔吐発現率が31.5%であり,他の薬剤を併用した試験ではGEM 単剤より催吐性リスクが高いと報告されていることより,この両レジメンは中等度リスクとした。

ci:continuous infusion

注意:
上記参考表に掲載した抗がん薬の投与量・投与方法・投与スケジュールは,制吐薬を適正に使用するための参考レジメンである。抗がん薬は,抗がん治療に関する他の診療ガイドライン等を確認のうえ,適正に使用すること。

3. 乳がん

リスク レジメン 対象疾患 薬 剤
高度リスク AC 乳がん ADM 60 mg/m2(d1),
CPA 600 mg/m2(d1):q3w
EC 乳がん EPI 90 mg/m2(d1),
CPA 600 mg/m2(d1):q3w
FAC 乳がん 5-FU 500 mg/m2(d1),
ADM 50 mg/m2 (d1),
CPA 500 mg/m2(d1):q3w
FEC 乳がん 5-FU 500 mg/m2(d1),
EPI 60-100 mg/m2(d1),
CPA 500 mg/m2(d1):q3w
TAC 乳がん DTX 75 mg/m2(d1),
ADM 50 mg/m2(d1),
CPA 500 mg/m2(d1):q3w
中等度リスク TC(DTX/CPA) 乳がん DTX 75 mg/m2(d1),
CPA 600 mg/m2(d1):q3w
CMF 乳がん CPA 100 mg/m2(d1-14 経口),
MTX 40 mg/m2(d1,8),
5-FU 600 mg/m2(d1,8):q4w
CPT-11 手術不能/再発乳がん 100 mg/m2(d1):q1w
トラスツズマブ/DTX/CBCDA HER2陽性の乳がん トラスツズマブ 初回4 mg/kg(d1)
→2 回目以降2 mg/kg(d1),
DTX 75mg/m2(dl),CBCDA(AUC6)(dl):q3w
軽度リスク DTX 乳がん 60〜100 mg/m2(d1):q3w
PTX 乳がん 175 mg/m2(d1):q3w or 80 mg/m2(d1):q1w
経口フッ化ピリミジン
(UFT,S-1,カペシタビンなど)
乳がん カペシタビン1,800〜3,000 mg/body(d1-21):q4w
もしくは3,000〜4,800 mg/body(d1-14):q3w,
UFT 300〜600 mg/body,
S-1 80〜120 mg/body(d1-28):q6w
GEM 手術不能/再発乳がん 1,250 mg/m2(d1,8):q3w
nab-PTX 乳がん 260 mg/m2(d1):q3w
ERI 手術不能/再発乳がん 1.4 mg/m2(d1,8):q3w
パルボシクリブ(内分泌療法剤との併用) 手術不能/再発乳がん 125 mg/body (d1-21):q4w
エベロリムス(エキセメスタンと併用) 手術不能/再発乳がん 10 mg/body
トラスツズマブ エムタンシン HER2陽性の手術不能/再発乳がん 3.6 mg/kg(d1):q3w
最小度リスク VNR 手術不能/再発乳がん 25 mg/m2(d1, 8):q3w
トラスツズマブ HER2陽性の乳がん 術後補助療法初回8 mg/kg (d1)
→ 2 回目以降 6 mg/kg(d1):q3w,
再発 初回 4 mg/kg (d1)
→ 2 回目以降 2 mg/kg(d1):q1w
ラパチニブ(カペシタビンとの併用) 手術不能/再発乳がん 1,250 mg/body
べバシズマブ 手術不能/再発乳がん 10 mg/kg(d1):q2w
ベルツズマブ 手術不能/再発乳がん 初回840 mg(d1)→2 回目以降420 mg(d1):q3w
解説 原発乳がんの術後補助薬物療法としては,有効性が高いアントラサイクリン系薬剤とタキサン系薬剤の2 剤を中心とした抗がん薬療法と,タモキシフェン,アロマターゼ阻害薬を中心とする内分泌療法があり,さらにがんに対する選択性が高く,副作用が重篤なものが少ないことから,分子標的薬が第3 のカテゴリーとされている。その中でヒト上皮増殖因子受容体2 型(human epidermal growth factor receptor 2;HER2)受容体のマウス由来モノクローナル抗体であるトラスツズマブが術後補助療法における有効性を示す報告もなされ,わが国でも承認されている。トラスツズマブを利用した薬剤・レジメンの開発も進んでいる。乳がんへの罹患は、女性、若年が多い関係で催吐リスクも高いと考えられる。制吐薬を併用する可能性があるのは,アントラサイクリン系薬剤,タキサン系薬剤が中心であると考えられる。その中で高度リスクに入るレジメンとしては,アントラサイクリン+シクロフォスファミド併用(AC)療法のみである。CBDCA併用レジメンは中等度または高度リスクに分類され,5-HT3受容体拮抗薬,デキサメタゾンを中心に,必要時はアプレピタントを併用し,悪心・嘔吐対策を行う。乳がん領域ではさまざまな薬物療法を行っていくことが多く,初回治療薬剤による悪心・嘔吐を十分コントロールすることが,それ以降の治療の成功の鍵を握っているといえる。
注意:
上記参考表に掲載した抗がん薬の投与量・投与方法・投与スケジュールは,制吐薬を適正に使用するための参考レジメンである。抗がん薬は,抗がん治療に関する他の診療ガイドライン等を確認のうえ,適正に使用すること。

4. 婦人科がん

リスク レジメン 対象疾患 薬 剤
高度リスク TP*(PTX/CDDP) 子宮頸がん PTX 135 mg/m2(d1),
CDDP 50 mg/m2(d2):q3w
CDDP 子宮頸がん CDDP 50 mg/m2(d1):q3w
放射線治療と併用の場合にはCDDP 40 mg/m2(d1):q1w, 6 cycle
AP(ADR/CDDP) 子宮体がん ADM 60 mg/m2(d1),
CDDP 50 mg/m2(d1):q3w
DP(DTX/CDDP) 子宮体がん DTX 70 mg/m2(d1),
CDDP 60 mg/m2(d1):q3w
IP 子宮癌肉腫 IFM 1.5mg/ m2(d1-4),
CDDP 20 mg/m2(d1-4):q3w
CPTP(CPT-11/CDDP) 卵巣がん,
子宮頸がん
CPT-11 60 mg/m2(d1,8,15),
CDDP 60 mg/m2(d1):q4w
BEP(BLM/ETP/CDDP) 卵巣胚細胞腫瘍 BLM 20-30 mg/body(d1,8,15),
ETP 100mg/m2 (d1-5),
CDDP 20 mg/2(d1-5):q3w
TIP(PTX/IFM/CDDP) 卵巣胚細胞腫瘍 PTX 175-250 mg/m2(d1),
IFM 1.5mg/m2(d2-5),
CDDP 25 mg/m2(d2-5):q3w
中等度リスク TC*(PTX/CBDCA) 子宮頸がん,子宮体がん,卵巣がん PTX 175 mg/m2(d1),
CBDCA AUC 5-6(d1):q3w
dose-dense TC(PTX/CBDCA) 卵巣がん PTX 80 mg/m2(d1,8,15),
CBDCA AUC 5-6(d1):q3w
DC(DTX/CBDCA) 卵巣がん DTX 75 mg/m2(d1),
CBDCA AUC 5(d1):q3w
PLDC(PLD/CBDCA) 卵巣がん PLD 30 mg/m2(d1),
CBDCA AUC 5(d1):q4w
GC*(GEM/CBDCA) 卵巣がん GEM 1000 mg/m2(d1, 8),
CBDCA AUC 4(d1):q3w
CPT-11 子宮頸がん,卵巣がん 100 mg/m2(d1,8,15):q4w
ADM 子宮肉腫 75 mg/m2(d1):q3w
IFM 子宮肉腫 1.5mg/ m2(d1-5):q3w
軽度リスク PLD* 卵巣がん 40-50 mg/m2(d1):q4w
ノギテカン(トポテカン)* 卵巣がん 1.5 mg/m2(d1-5):q3w
GEM 卵巣がん 1,000 mg/m2(d1, 8, 15):q4w
PTX* 卵巣がん 80 mg/m2(d1,8,15):q4w
経口ETP 卵巣がん 50-75 mg/body(d1-21):q4w
GD (GEM, DTX) 子宮肉腫 GEM 900 mg/m2(d1,8),
DTX 100 mg/m2(d8):q3w
最小度リスク ベバシズマブ 子宮頸がん,卵巣がん 15 mg/kg(d1):q3w
解説 婦人科領域はプラチナ併用レジメンが有用で,CDDP またはCBDCA との併用レジメンが多い。CDDP を用いるレジメンは高度リスクに分類されるため,5-HT3受容体拮抗薬,アプレピタント,デキサメタゾンによる十分な悪心・嘔吐対策を行う。CBDCA 併用レジメンは中等度または高度リスクに分類され,5-HT3受容体拮抗薬,デキサメタゾンを中心に,必要時はアプレピタントを併用し,悪心・嘔吐対策を行う。ベバシズマブは最小度リスクであるが,他の抗がん薬と併用して使用する場合には(*:ベバシズマブ併用可能レジメン),併用するレジメンの催吐性リスクにしたがって悪心・嘔吐対策を行う。
注意:
上記参考表に掲載した抗がん薬の投与量・投与方法・投与スケジュールは,制吐薬を適正に使用するための参考レジメンである。抗がん薬は,抗がん治療に関する他の診療ガイドライン等を確認のうえ,適正に使用すること。

5. 泌尿器科がん

リスク レジメン 対象疾患 薬 剤
高度リスク MVAC 膀胱がん MTX 30 mg/m2(d1,15,22),
VLB 3 mg/m2(d2,15,22),
ADR 30 mg/m2(d2),
CDDP 70 mg/m2(d2):q4w
GEM/CDDP 膀胱がん GEM 1,000 mg/m2(d1,8,15),
CDDP 70 mg/m2(d2):q4w
中等度リスク      
軽度リスク IFNα-2b 腎がん 300-1,000 万 IU/body:3-5 回/w
DTX 前立腺がん 75 mg/m2(d1):q3w
カバジタキセル 前立腺がん 25 mg/m2(d1):q3w
スニチニブ 腎がん 50 mg/body(d1-28):q6w
アキシチニブ 腎がん 10 mg(max 20 mg)/body
パゾパニブ 腎がん 800 mg/body
エベロリムス 腎がん 10 mg/body
最小度リスク ソラフェニブ 腎がん 800 mg/body
テムシロリムス 腎がん 25 mg/body(d1):q1w
ニボルマブ 腎がん 240 mg/body(d1):q2w
ペンブロリズマブ 尿路上皮がん 200mg/body(d1) :q3w
解説 膀胱がんはCDDP 併用療法が標準であり,高度リスクのレジメンである。腎細胞がんや前立腺がんは分子標的薬やドセタキセル,カバジタキセルが使用され,軽度・最小度リスクに分類される。
注意:
上記参考表に掲載した抗がん薬の投与量・投与方法・投与スケジュールは,制吐薬を適正に使用するための参考レジメンである。抗がん薬は,抗がん治療に関する他の診療ガイドライン等を確認のうえ,適正に使用すること。

6. 頭頸部がん

リスク レジメン 対象疾患 薬 剤
高度リスク CDDP 頭頸部がん 100 mg/m2(d1, 22, 43)
DTX/CDDP/5-FU 頭頸部がん CDDP 75〜100 mg/m2(d1),
DTX 75 mg/m2(d1),
5-FU 750〜1,000 mg/m2(d1-4 or 5):q3w
5-FU/CDDP 頭頸部がん CDDP 80 mg/m2(d1),
5-FU 800 mg/m2(d1-5):q4w
5-FU/CDDP/セツキシマブ 頭頸部がん 5-FU 1000 mg/m2(d1-4),
CDDP 100 mg/m2(d1),
セツキシマブ 初回 400 mg/m2
維持 250 mg/m2(d1,8,15):q3w
中等度リスク CBDCA 頭頸部がん AUC1.5(d1):q1w
CBDCA/5-FU 頭頸部がん CBDCA 70 mg/m2(d1-4),
5-FU 600 mg/m2(d1-4):q3w
5-FU/CBDCA/セツキシマブ* 頭頸部がん 5-FU 1000 mg/m2(d1-4), CBDCA(AUC5)(d1),
セツキシマブ 初回 400 mg/m2,
維持 250 mg/m2(d1,8,15):q3w
軽度リスク DTX 頭頸部がん 60 mg/m2(d1):q3w
PTX 頭頸部がん 100mg/m2(d1,8,15,22,29,36):q7w
最小度リスク セツキシマブ 頭頸部がん 初回 400 mg/m2,維持 250 mg/m2(d1):q1w
ニボルマブ 頭頸部がん 240 mg/body(d1):q2w
解説 頭頸部がんのキードラッグは白金製剤(CDDP もしくはCBDCA)であり,単剤あるいは併用療法が標準療法として使用される。CBDCA 併用レジメンは中等度または高度リスクに分類され,5-HT3受容体拮抗薬,デキサメタゾンを中心に,必要時はアプレピタントを併用し,悪心・嘔吐対策を行う*。セツキシマブ単剤療法を行う際は制吐療法は考慮しなくてよい。
注意:
上記参考表に掲載した抗がん薬の投与量・投与方法・投与スケジュールは,制吐薬を適正に使用するための参考レジメンである。抗がん薬は,抗がん治療に関する他の診療ガイドライン等を確認のうえ,適正に使用すること。

7. 造血器悪性腫瘍

リスク レジメン 対象疾患 薬 剤
高度リスク ESHAP 悪性リンパ腫 ETP 40 mg/m2(d1-4),
CDDP 25 mg/m2(d1-4),
Ara-C 2g/m2(d5),
mPSL 500 mg/m2(d1-5):q3w
ABVd 悪性リンパ腫 ADR 25 mg/m2(d1,15),
BLM 10 mg/m2(d1,15),
VLB 6 mg/m2(d1,15),
DTIC 250 mg/m2 (d1,15):q4w
CHOP 悪性リンパ腫 CPA 750 mg/m2(d1),
ADR 50 mg/m2(d1),
VCR 1.4 mg/m2(d1),
PSL 100 mg/body(d1-5):q3w
EPOCH 悪性リンパ腫 ETP 50 mg/m2(d1-4),
CPA 750 mg/m2(d5),
ADR 10 mg/m2(d1-4),
VCR 0.4 mg/m2(d1-4),
PSL 60 mg/m2(d1-5):q3w
Hyper-CVAD/MA 悪性リンパ腫 CPA 300 mg/m2×2(d1-3),
ADR 50 mg/m2(d4), VCR 2 mg/body(d4, 11),
DEX 40 mg/body(d1-4,11-14)
および MTX 200 mg/m2, 800 mg/m2(d1),
Ara-C 2 g/m2×2(d2-3):q3w で交替投与
DNR/Ara-C 急性白血病  
IDR/Ara-C 急性白血病  
ICE 悪性リンパ腫 IFM 1.2 g/m2(d1-5),
CBDCA 400 mg/m2(d1),
ETP100 mg/m2(d1-5):q3w
DeVIC 悪性リンパ腫 IFM 1.5 g/m2(d1-3),
CBDCA 300 mg/m2(d1),
ETP100 mg/m2(d1-3),
DEX 40 mg/body(d1-3):q3w。
放射線療法併用時は悪心が高度になるリスクあり。
C-MOPP 悪性リンパ腫 CPA 500 mg/m2(d1,8),
VCR 1.4 mg/m2(d1,8),
PCZ100 mg/m2(d1-14),
PSL 40 mg/m2(d1-3,8-10):q4w
CPA 悪性リンパ腫 1,500 mg/m2以上の大量療法
中等度リスク VAD 多発性骨髄腫 VCR 0.4 mg/m2(d1-4),
ADR 9 mg/m2(d1-4),
DEX 40 mg/body(d1-4,9-12,17-20):q3w
VCP 悪性リンパ腫 VCR 1.4 mg/m2(d1),CPA 750 mg/m2(d1),
PSL 40 mg/m2(d1-5):q3w
CPT-11 悪性リンパ腫 40 mg/m2(d1-3):q1w 2-3サイクル後2週以上休薬
CPA 悪性リンパ腫 1,500 mg/m2以下
ETP(経口) 悪性リンパ腫  
MTX

急性白血病

悪性リンパ腫

1,000 mg/m2以上の大量療法
ベンダムスチン 悪性リンパ腫 120 mg/m2(d1, 2):q3w
ACNU 悪性リンパ腫 1)2〜3 mg/kgを1 回投与し、投与後末梢血液所見により4〜6 週間休薬。
2)1 回2 mg/kg を1 週間隔で2〜3 週投与し、投与後末梢血液所見により4〜6 週間休薬。
MCNU 悪性リンパ腫 50〜90 mg/m2を1 回投与し,次回投与は血液所見の推移にしたがって6〜8 週後に行う。
三酸化ヒ素 急性前骨髄性白血病 寛解導入療法0.15 mg/kg 1 日1 回60 回以内
寛解導入療法 5 週で25 回
PBD 多発性骨髄腫 パノビノスタット16 mg/body (d1,3,5,8,10,12),
BOR 1.3 mg/m2 (d1,4,8,11),
DEX 20 mg/body (d1,2,4,5,8,9,11,12) :q3w
9 コース目以降減量
イマチニブ 慢性骨髄性白血病 慢性期400〜600 mg/body,
移行期・急性期600〜800 mg/body
Ph 陽性急性リンパ性白血病 600 mg/body
ボスチニブ 慢性骨髄性白血病 500 mg/body
アザシチジン 骨髄異形成症候群 75 mg/m2(d1-7):q4w
イノツズマブ オゾガマイシン CD22 陽性急性リンパ性白血病 0.8 mg/m2(d1),0.5 mg/m2(d8, d15):q4w
軽度リスク MP 多発性骨髄腫 L-PAM 8 mg/m2(d1-4),
PSL 60 mg/m2(d1-4):q4w
CAG 急性白血病
骨髄異形成症候群
Ara-C 10 mg/m2(d1-14),ACR 10〜14 mg/m2(d1-4),G-CSF 200 μg/m2(d1-14)
ブスルファン 慢性骨髄性白血病
真性多血症
成人:他の抗がん薬との併用において,1 回0.8 mg/kg を2 時間かけて点滴静注。6 時間毎に1 日4 回,4 日間投与。
ボルテゾミブ 多発性骨髄腫 1.3 mg/m2(d1,4,8,11): q3w
BD 多発性骨髄腫 BOR 1.3 mg/m2(d1,4,8,11),
DEX 20mg/body(d1,2,4,5,8,9,11,12):q3w,
VRd 多発性骨髄腫 BOR 1.3 mg/m2 (d1,4,8,11),
LEN 25 mg/body(d1-14),
DEX 20 mg/body(d1,2,8,9,15,16,22,23):q3w
移植適応初回治療に使用、再発例は量が異なるため注意
MPB 多発性骨髄腫 BOR 1.3 mg/m2(d1,4,8,11,22,25,29,32),
L-PAM 9 mg/m2経口(d1-4),
PSL 60 mg/m2経口(d1-4):q6w
IRd 多発性骨髄腫 イキサゾミブ 4 mg/body (d1,8,15), LEN 25 mg/body (d1-21), DEX 40 mg/body (d1,8,15,22) :q4w
ELd 多発性骨髄腫 エロツズマブ 10 mg/kg(d1,8,15,22), LEN 25 mg/body(d1-21), DEX 36 mg/body(d1,8,15,22):q4w
KRd 多発性骨髄腫 カルフィルゾミブ 27 mg/m2 (20 mg/m2 1 コース目day1,2 のみ) (d1,2,8,9,15,16),LEN 25mg/body (d1-21),
DEX 40 mg/body (d1,8,15,22) :q4w 13 コース目以降減量
Kd 多発性骨髄腫 カルフィルゾミブ 56 mg/m2 (20mg/m2 1 コース目day1,2 のみ) (d1,2,8,9,15,16),
DEX 20 mg/body (d1,2,8,9,15,16,22,23) :q4w
DLd 多発性骨髄腫 ダラツムマブ 16 mg/kg(d1,8,15,22),
LEN 25 mg/body (d1-21),
DEX 20 mg/body(d1,2,8,9,15,16,22,23):q4w,
DARA は3 コース以降減量
DBd 多発性骨髄腫 ダラツムマブ16 mg/kg(d1,8,15),
BOR 1.3 mg/m2 (d1,4,8,11),
DEX 20 mg/body(d1,2,4,5,8,9,11,12):q3w
DARA は4 コース以降減量
ボリノスタット 皮膚T 細胞性リンパ腫 400 mg/body
ロミデプシン 末梢性T細胞リンパ腫 14 mg/m2 (d1,8,15):q4w
ブレンツキシマブ ベドチン CD30 陽性ホジキンリンパ腫
CD30 陽性未分化大細胞リンパ腫
1.8mg/kg(d1):q3w
イブルチニブ 慢性リンパ性白血病 420mg/body
マントル細胞リンパ腫 560 mg/body
ニロチニブ 慢性骨髄性白血病 800 mg/body〔初発慢性期600 mg/body〕
ポナチニブ 慢性骨髄性白血病
Ph 陽性急性リンパ性白血病
45 mg/body
最小度リスク フルダラビン 悪性リンパ腫 40 mg/m2 経口(d1-5):q4w
慢性リンパ性白血病 20 mg/m2 点滴静注(d1-5):q4w
クラドリビン 悪性リンパ腫 0.09 mg/m2(d1-7):q4-6w,
0.12mg/m2(d1-5):q4-6w
ヘアリーセル白血病 0.09 mg/m2(d1-7)1 サイクル
ヒドロキシカルバミド 慢性骨髄性白血病 500〜2,000 mg/body
ネララビン T 細胞急性リンパ性白血病
T 細胞リンパ芽球性リンパ腫
1,500 mg/m2(d1,3,5)q3w
フォロデシン 末梢性T 細胞リンパ腫 600 mg/body
プララトレキサート 末梢性T 細胞リンパ腫 30 mg/m2 (d1,8,15,22,29,36):q7w
サリドマイド 多発性骨髄腫 100 mg(max 400 mg)/body
レナリドミド(LEN) 多発性骨髄腫 25 mg/body(d1-21):q4w
LD 多発性骨髄腫 LEN 25 mg/body(d1-21),
DEX 40 mg/body(d1,8,15,22):q4w
Pd 多発性骨髄腫 ポマリドミド 4 mg/body (d1-21),
DEX 40 mg/body(d1, 8, 15, 22): q4w
リツキシマブ CD20 陽性 B 細胞性リンパ腫 375 mg/m2を1 週間間隔で点滴静注。投与回数は8 回まで。
オファツムマブ CD20 陽性の慢性リンパ性白血病 2000 mg/body(週1 回) 1 回目のみ300mg/body
アレムツズマブ 慢性リンパ性白血病 30 mg/body(週3 回,隔日) 開始時3 mg/body→10 mg/body
モガムリズマブ 成人T 細胞白血病/リンパ腫 1 mg/kg q1w 8 回
ベキサロテン 皮膚T 細胞性リンパ腫 300 mg/m2
ゲムツズマブ
オゾガマイシン
CD33 陽性急性骨髄性白血病 9 mg/m2(d1,15)
ダサチニブ 慢性骨髄性白血病 慢性期100〜140 mg/body,
移行期・急性期140〜180 mg/body
Ph 陽性急性リンパ性白血病 140〜180 mg/body
ルキソリチニブ 骨髄線維症 10〜50 mg/body
真性多血症 20〜50 mg/body
ニボルマブ 古典的ホジキンリンパ腫(再発難治性) 240 mg/body(d1):q2w
ペンブロリズマブ 古典的ホジキンリンパ腫(再発難治性) 200 mg/body(d1):q3w
解説 急性・慢性白血病,悪性リンパ腫,骨髄異形成症候群,多発性骨髄腫などに代表される造血器悪性腫瘍は,他の固形腫瘍と比較し薬物療法への感受性が高く,より強力な多剤併用療法や高用量の投与法が施行されることが多い。各種レジメンの悪心・嘔吐を予測するためには,MASCC,ASCO,NCCN ガイドラインにおける各薬剤の単剤でのリスク分類を指標として評価するのが妥当である。
この中でも,日常診療において使用頻度が高い併用療法レジメンを列挙し,悪心・嘔吐のリスク別に分類する。これらのレジメンの悪心対策としては,単剤での高度リスクに準じた対処法,すなわち急性嘔吐に対して5-HT3受容体拮抗薬/副腎皮質ステロイドおよびアプレピタントの3 剤併用療法,遅発性嘔吐に対しては副腎皮質ステロイドおよびアプレピタントが推奨される。その他の併用療法レジメンに関しては,単剤における中等度リスクあるいは軽度リスクに準じた治療,すなわち中等度リスクに対しては5-HT3受容体拮抗薬/副腎皮質ステロイド,軽度および最小度リスクに対しては副腎皮質ステロイドの予防投与が望ましい。
また,悪性リンパ腫や白血病では,消化管や中枢神経病変の合併,治療として放射線療法(頭蓋内,脊髄,上腹部など)の併用による悪心・嘔吐があるため,単に抗がん薬による副作用のみならず,他の原因を念頭に置いた総合的な悪心・嘔吐リスクの把握・予防対策が望まれる。
近年,多数の分子標的薬剤が使用可能になった。特に多発性骨髄腫の分野では併用療法として使用する薬剤も増えている。催吐リスクについて,代表的な臨床試験における有害事象を参考に記載した。概ね軽度リスク以下のものが多い。分子標的においても,予想より悪心嘔吐が強い症例もあり,宿主のリスク因子も考慮して制吐療法を行うことが重要である。
注意:
上記参考表に掲載した抗がん薬の投与量・投与方法・投与スケジュールは,制吐薬を適正に使用するための参考レジメンである。同一疾患でも状況によって(初発,再発など)使用できない薬剤もあるため,抗がん治療に関する他の診療ガイドライン等を確認のうえ,適正に使用すること。

8. 睾丸腫瘍・胚細胞腫

リスク レジメン 対象疾患 薬 剤
高度リスク BEP 睾丸腫瘍・胚細胞腫 BLM 30 mg/body(d1, 8, 15),
ETP 100 mg/m2(d1-5),
CDDP 20 mg/m2(d1-5):q3w
EP 睾丸腫瘍・胚細胞腫

ETP 100 mg/m2(d1-5),

CDDP 20 mg/m2(d1-5):q3w

VIP 睾丸腫瘍・胚細胞腫 ETP 75 mg/m2(d1-5),
IFM 1,200 mg/m2(d1-5),
メスナ, 120 mg/m2iv(d1)→ 1,200 mg/m2ci (d1-5),
CDDP 20 mg/m2(d1-5):q3w
VeIP 睾丸腫瘍・胚細胞腫 VLB 0.11 mg/kg (d1,2) ,
IFM 1,200 mg/m2(d1-5),
メスナ 400 mg/m2 every 8 h(d1-5),
CDDP 20 mg/m2(d1-5):q3w
TIP 睾丸腫瘍・胚細胞腫 PXL 250 mg/m2(d1),
IFM 1,500 mg/m2(d2-5),
メスナ 500 mg/m2
(IFM 投与前,4 時間後,8 時間後,投与終了後)(d2-5),
CDDP 20 mg/m2(d2-5):q3w
解説 睾丸腫瘍・胚細胞腫に対する薬物療法はCDDP 併用療法である。したがって高度リスク群のレジメンに入るが,少量5 日間連日投与であるBEP やEP 療法では1〜8 日目に中等度〜高度の悪心・嘔吐が認められる。従来から,5-HT3受容体拮抗薬は中等度リスクの薬剤投与期間中併用し,デキサメタゾンも中等度リスクの薬剤投与日と遅発性嘔吐をきたす可能性があれば投与終了後も2〜3 日継続している。今後,初回より遅発性嘔吐に有効なパロノセトロンやアプレピタントの使用ができるようになり,従来の5-HT3受容体拮抗薬に代わり,少ない制吐薬の投与回数で済ませられる可能性はある。

ci:continuous infusion
iv:intravenous infusion

注意:
上記参考表に掲載した抗がん薬の投与量・投与方法・投与スケジュールは,制吐薬を適正に使用するための参考レジメンである。抗がん薬は,抗がん治療に関する他の診療ガイドライン等を確認のうえ,適正に使用すること。

9. 骨軟部腫瘍

リスク レジメン 対象疾患 薬 剤
高度リスク CDDP/DXR 骨腫瘍 DXR 30 mg/m2(d1-2),
あるいは DXR 25 mg/m2(d1-3),
CDDP 100 mg/m2(d1):q3w
BCD/HD-MTX 骨腫瘍 BLM 12 mg/m2(d1-2),
CPA 600 mg/m2(d1-2),
Act-D 0.45 mg/m2(d1-2)。
MTXは1,000 mg/m2以上の大量療法
CDDP/DXR/HD-MTX 骨腫瘍 CDDP 100 mg/m2(d1),
DXR 25 mg/m2(d1-3),
HD-MTX
VDCA および
IFM/ETP 交替療法
骨腫瘍 VCR 2 mg/body (d1),
ADR 75 mg/m2(d1),
CPA 1.2 g/m2(d1),
および IFM 1.8 g/m2(d1-5),
ETP 100 mg/m2(d1-5):q3w で交替投与
VACA 骨腫瘍 VCR,Act-D,CPA,ADR
VAIA 骨腫瘍 VCR,Act-D,IFM,ADR
VACA/IE 骨腫瘍 VCR,Act-D,CPA,ADR,IFM,ETP
CYVADIC 骨軟部腫瘍 CPA 500 mg/m2(d1),
VCR 1.5 mg/m2(d1,5),
DXR 50 mg/m2(d1),
DTIC 250 mg/m2(d1-5):q3w
MAID 骨軟部腫瘍 メスナ 1.5 g/m2(d1-3),
ADR 20 mg/m2(d1-3),
IFM 2.5 g/m2(d1-3),
DTIC 300 mg/m2(d1-3):q4w
DXR/IFM 骨軟部腫瘍 DXR 30 mg/m2(d1-2),
IFM 2 g/m2(d1-5):q3w
VAC 骨軟部腫瘍 VCR 1.5 mg/m2(d1,8,15),
Act-D 0.045 mg/kg(d1),
CPA 2.2 g/m2(d1):q3w
中等度リスク HD-MTX 骨腫瘍 8〜12 g/m2(d1)
BCD 骨腫瘍 BLM 12 mg/m2(d1-2),
CPA 600 mg/m2(d1-2),
Act-D 0.45 mg/m2(d1-2)
IFM/ETP 骨軟部腫瘍 IFM 1,800 mg/m2(d1-5),
ETP 100 mg/m2(d1-5)
トラベクテジン 悪性軟部腫瘍 1.2 mg/m2(d1):q3w
軽度リスク パゾパニブ 悪性軟部腫瘍 800 mg/body
解説 骨軟部腫瘍は悪性骨腫瘍と軟部肉腫に大別される。骨腫瘍の中でも頻度の多い骨肉腫は,切除可能な例では手術療法を中心に,術前・術後に薬物療法が行われる。単剤としてはCDDP,ADR,MTX,IFM が有効である。代表レジメンとして,CDDP/DXR,HD-MTX,BCD,BCD/HD-MTX,CDDP/DXR/HD-MTX,IFM/ETP がある。これら多剤併用療法の多くは全身投与(静脈内投与)されるが,ときにCDDP,ADR の動注療法が行われる。骨腫瘍の中のEwing 肉腫は薬剤感受性が高く薬物療法が行われる。単剤ではADR,CPA,VCR,IFM,ETP,Act-D,MTX が有効である。
代表レジメンとしては,VDCA およびIFM/ETP 交替療法,VACA,VAIA,VACA/IE が挙げられる。軟部肉腫(非小円形細胞肉腫)は,キードラッグはDXR とIFM であり,DTIC やETP も有効である。代表的なレジメンは,VAC,CYVADIC,MAID,DXR/IFM,IFM/ETP である。これら骨軟部腫瘍に対するレジメンでは,単剤で高度リスクに分類されるCDDP,DTIC や,あるいは中等度リスクであるADR,CPA を含むレジメンである。したがって,悪心対策としては,高度リスクに準じた対処法,すなわち5-HT3受容体拮抗薬/副腎皮質ステロイドおよびアプレピタントの併用療法が推奨される。
注意:
上記参考表に掲載した抗がん薬の投与量・投与方法・投与スケジュールは,制吐薬を適正に使用するための参考レジメンである。抗がん薬は,抗がん治療に関する他の診療ガイドライン等を確認のうえ,適正に使用すること。

10. 皮膚がん

リスク レジメン 対象疾患 薬 剤
高度リスク DTIC メラノーマ 850〜1,000 mg/m2(d1),
あるいは 200-250 mg/m2(d1-5):q4w
CA 非メラノーマ CDDP 25 mg/m2(d1-3),
ADR 50 mg/m2 d1):q4w
DAC-Tam メラノーマ DTIC 220 mg/m2(d1-3),
ACNU 60 mg/m2(d1),
CDDP 25 mg/m2(d1-3),
TAM 20 mg/body:q4w
DAV メラノーマ DTIC 120 mg/m2(d1-5),
ACNU 60 mg/m2(d1),
VCR 0.6 mg/m2(d1):q4w
CDV メラノーマ CDDP 60 mg/m2(d1),
DTIC 120 mg/m2(d2, 6),
VDS 2mg/m2(d2):q4w
MAID 非メラノーマ メスナ 1.5 g/m2(d1-3),
ADR 20 mg/m2(d1-3),
IFM 2.5 g/m2(d1-3),
DTIC 300 mg/m2(d1-3):q4w
DACa-Tam メラノーマ DTIC 220 mg/m2,
ACNU 60 mg/m2
CBDCA AUC 4 or 5,
TAM 20 mg/body : q4w
中等度リスク CPT-11 非メラノーマ 100 mg/m2 (d1, 8, 15) q5w
軽度リスク TXT 非メラノーマ 60 mg/m2:q4w
ダブラフェニブ メラノーマ 300 mg/body
最小度リスク ニボルマブ メラノーマ 240 mg/body (d1):q2w
イピリムマブ メラノーマ 3 mg/kg (d1):q3w
アベルマブ メルケル細胞がん 10 mg/kg (d1):q2w
トラメチニブ メラノーマ 3 mg/body
ベムラフェニブ メラノーマ 1,920 mg/body
解説 皮膚悪性腫瘍の中で頻度の多い疾患として,悪性黒色腫,有棘細胞がん,基底細胞がんがある。悪性黒色腫の治療は,手術療法を中心とした集学的治療が行われる。中でも遠隔転移例や術後補助療法として薬物療法が施行される。頻用されている薬剤はDTIC であり,代表的な多剤併用レジメンとして,DAC-Tam,DAV,CDV がある。MASCC,NCCN ガイドラインにおいて単剤で高度リスクに分類されるDTIC を含んでいるレジメンであるため,高度リスクに準じた治療,すなわち5-HT3受容体拮抗薬/副腎皮質ステロイド/アプレピタントの併用療法が推奨される。悪性黒色腫以外の皮膚悪性腫瘍は外科切除が中心であり,有効な薬物療法が確立していないが,CDDP/ADR,CDDP/5-FU/BLM などの併用療法が施行される,悪心の強いCDDP を含むことから高度リスクに準じた予防対策を取る。稀であるが皮膚悪性リンパ腫の場合は,ADR,CPA を含むCHOP 療法が使用されるので高度リスクに準じた予防が行われる。
注意:
上記参考表に掲載した抗がん薬の投与量・投与方法・投与スケジュールは,制吐薬を適正に使用するための参考レジメンである。抗がん薬は,抗がん治療に関する他の診療ガイドライン等を確認のうえ,適正に使用すること。

11. 脳腫瘍

リスク レジメン 対象疾患 薬 剤
高度リスク ACNU 神経膠腫 80 mg/m2(d1, 36)
PAV 神経膠腫 PCZ 75 mg/m2(d8-21),
ACNU 80 mg/m2(d1),
VCR 1.4 mg/m2(d8,29):q6w
中等度リスク テモゾロミド 神経膠腫 75 mg/m2
あるいは 200 mg/m2 (d1-5):q4w
(初回は 150 mg/m2
最小度リスク ベバシズマブ 悪性神経膠腫 10 mg/m2:q2w,あるいは15 mg/m2:q3w
解説 悪性神経膠腫に代表される悪性脳腫瘍は,浸潤性発育をするため治療に難渋する予後不良な疾患であり,手術,放射線治療と併用して薬物療法が施行される。特に,悪性星細胞腫(退形成性星細胞腫および膠芽腫)に対しては,経口アルキル化薬であるテモゾロミドと放射線照射との併用が有用である。テモゾロミドは悪心・嘔吐の副作用が軽微であると報告されており,MASCC ガイドラインでは中等度リスクに分類される。さらに,放射線療法と併用してニトロソウレア系薬剤(ACNU,BCNU,CCNU)の投与が行われる。ACNU は中等度の催吐性リスクとして対処する。頭蓋内腫瘍は疾患の特徴として潜在的に脳圧亢進による悪心をきたしやすい状態であり,また放射線照射を併用することが多いため,たとえ軽度リスクの抗がん薬であっても高度リスク,中等度リスクに準じた治療が考慮される。また,神経膠腫に対してインターフェロンβが用いられることがあるが,催吐性リスクは不明である。一方で,退形成性乏突起膠腫では,PCV,PAV などの併用療法が行われることがある。これらはニトロソウレア系薬剤,プロカルバジンを含むため高度の催吐性リスクをもつ治療として予防対策を取る。
注意:
上記参考表に掲載した抗がん薬の投与量・投与方法・投与スケジュールは,制吐薬を適正に使用するための参考レジメンである。抗がん薬は,抗がん治療に関する他の診療ガイドライン等を確認のうえ,適正に使用すること。また小児悪性脳腫瘍や中枢神経原発悪性リンパ腫は本稿では除外した。

12. 原発不明がん

リスク レジメン 対象疾患 薬 剤
高度リスク iv-ip PXL/
ip CDDP
腹膜腺がん PXL 135 mg/m2 24h ci(d1),
CDDP 100 mg/m2 ip (d2),
PXL 80 mg/m2 ip(d8):q3w
DTX/CDDP/
5-FU
原発不明扁平上皮がん DTX 75 mg/m2(d1),
CDDP 75〜100 mg/m2(d1),
5-FU 750〜1,000 mg/m2(d1-4 or 1-5):q3w
CDDP/5-FU 原発不明扁平上皮がん CDDP 80〜100 mg/m2(d1),
5-FU 800〜1,000 mg/m2 ci (d1-4 or 1-5):q3-4w
CDDP/GEM 原発不明腺がん CDDP 100 mg/m2(d1),
GEM 1,250 mg/m2(d1, 8):q3w
CDDP/ETP 原発不明神経内分泌腫瘍(未分化がん・小細胞がん) CDDP 60〜80 mg/m2(d1),
ETP 100〜120 mg/m2(d1-3):q3w
CDDP/CPT-11 原発不明神経内分泌腫瘍(未分化がん・小細胞がん) CDDP 60 mg/m2(d1),
CPT-11 60 mg/m2(d1,8,15):q4w
中等度リスク PXL/CBDCA 腹膜腺がん・原発不明腺がん PXL 175 mg/m2(d1),
CBDCA AUC 5-7.5(d1):q3w
DTX/CBDCA 腹膜腺がん DTX 60〜75 mg/m2(d1),
CBDCA AUC 5-6(d1):q3w
DTX/GEM 原発不明腺がん DTX 75 mg/m2(d1),
GEM 1,000 mg/m2(d1, 8):q3w
FOLFOX 原発不明腺がん・扁平上皮がん mFOLFOX6:l-LV 200 mg/m2/2h,
l-OHP 85 mg/m2/2h,
5-FU bolus 400 mg/m2,
5-FU ci 2,400〜3,000 mg/m2/46h:q2w
XELOX 原発不明腺がん カペシタビン2,000 mg/m2/day(d1-14),
l-OHP 130 mg/m2/2h(d1):q3w
CBDCA/ETP 原発不明神経内分泌腫瘍(未分化がん・小細胞がん) CBDCA AUC 5-6(d1),
ETP 100 mg/m2(d1-3):q3w
解説 原発不明がんの場合は組織型により抗がん薬の選択が異なるも,キードラッグは白金製剤であるためほとんどの場合CDDP かCBDCA が含まれ, 最近ではl-OHP を含むレジメンも利用されている。腹膜腺がんの場合は卵巣がんに準じたレジメン選択となり,抗がん薬の腹腔内投与も行われるが,催吐性リスクは静脈内投与の場合と同様に考えて処置を行う。CBDCA 併用レジメンは中等度または高度リスクに分類され,5-HT3 受容体拮抗薬,デキサメタゾンを中心に,必要時はアプレピタントを併用し,悪心・嘔吐対策を行う。

ci:continuous infusion
iv:intravenous infusion
ip:intraperitoneal administration

注意:
上記参考表に掲載した抗がん薬の投与量・投与方法・投与スケジュールは,制吐薬を適正に使用するための参考レジメンである。抗がん薬は,抗がん治療に関する他の診療ガイドライン等を確認のうえ,適正に使用すること。

薬剤略語一覧
略 語 一般名 代表的な商品名 投与方法
ACNU ニムスチン ニドラン 静注
ACR アクラルビシン アクラシノン 静注
Act-D アクチノマイシン D コスメゲン 静注
ADM,ADR,DXR ドキソルビシン アドリアシン 静注
Ara-C シタラビン キロサイド 静注
BCNU carmustine 静注
BLM ブレオマイシン ブレオ 静注
BOR ボルテゾミブ ベルケイド 静注
CBDCA カルボプラチン パラプラチン 静注
CCNU lomustine 静注
CDDP シスプラチン ブリプラチン,ランダ 静注
CPA,CPM シクロホスファミド エンドキサン 静注,経口
CPT-11 イリノテカン カンプト,トポテシン 静注
DEX デキサメタゾン デカドロン 経口
DNR ダウノルビシン ダウノマイシン 静注
DTIC ダカルバジン ダカルバジン 静注
DTX,TXT ドセタキセル タキソテール 静注
ERI エリブリンメシル ハラヴェン 静注
EPI エピルビシン ファルモルビシン 静注
ETP エトポシド ベプシド,ラステット 静注,経口
G-CSF フィルグラスチム,レノグラスチム グラン,ノイトロジン 皮下注,静注
GEM ゲムシタビン ジェムザール 静注
IDR イダルビシン イダマイシン 静注
IFM イホスファミド イホマイド 静注
IFNα-2b インターフェロン α-2b イントロン A 筋注
LEN レナリドミド レブラミド 経口
l-LV レボホリナート アイソボリン 静注
l-OHP,OHP オキサリプラチン エルプラット 静注
l-PAM メルファラン アルケラン 静注,経口
LV ホリナート,ロイコボリン ロイコボリン 静注,経口
MCNU ラニムスチン サイメリン 静注
mPSL メチルプレドニゾロン ソル・メドロール 静注
MTX メトトレキサート メソトレキセート 静注,経口
PCZ プロカルバジン 塩酸プロカルバジン 経口
PLD リポソーム化ドキソルビシン ドキシル 静注
PSL プレドニゾロン プレドニン 静注,経口
PTX,PXL パクリタキセル タキソール 静注
nab-PTX アルブミン懸濁型パクリタキセル アブラキサン 静注
S-1 テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム ティーエスワン 経口
TAM タモキシフェン ノルバデックス 経口
TAS-102 トリフルリジン・チピラシル ロンサーフ 経口
UFT テガフール・ウラシル ユーエフティ 経口
VCR ビンクリスチン オンコビン 静注
VDS ビンデシン フィルデシン 静注
VLB ビンブラスチン エクザール 静注
VNR ビノレルビン ナベルビン 静注
5-FU フルオロウラシル 5-FU 静注