疼痛管理 〜治療アルゴリズム

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  共通する疼痛治療

鎮痛薬が投与されていない軽度の痛みのあるがん患者

 鎮痛薬が投与されていない軽度の痛みのあるがん患者に対して,有効な治療は何か?

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フローチャート

痛みの原因の評価と痛みの評価を行い,原因に応じた対応を行う。疼痛治療としては,非オピオイド鎮痛薬(NSAIDs またはアセトアミノフェン)を開始する。NSAIDs を投与する場合には,プロスタグランジン製剤,プロトンポンプ阻害薬,および,高用量のH2受容体拮抗薬のいずれかを併用する。腎機能障害・消化性潰瘍・出血傾向がある場合にはアセトアミノフェンを使用する。鎮痛効果が不十分な場合には,オピオイドを開始することを原則とする。痛みが軽度の場合には,他のNSAIDs への変更またはアセトアミノフェンとNSAIDs の併用を検討してもよい。


:痛みの包括的評価

本ガイドラインでいう「痛みの包括的評価」とは,①痛みの原因の評価と②痛みの評価からなる。痛みの原因の評価とは,身体所見や画像検査から痛みの原因を診断することであり,疼痛治療に加えて原因に対する治療が必要かどうかの判断などに役立てることができる。痛みの評価とは,患者の自覚症状としての痛みの強さや生活への影響,治療効果を評価するものであり,これを行うことで,患者にあわせた疼痛治療を計画することができるようになる。参照


非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない,または,中等度以上の痛みのあるがん患者

 非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない,または,中等度以上の痛みのあるがん患者に対して,有効な治療は何か?

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フローチャート

痛みの原因の評価と痛みの評価を行い,原因に応じた対応を行う。疼痛治療としては,オピオイドを開始する。オピオイドは,可能な投与経路,合併症,併存症状,痛みの強さなど患者の状態に応じて,コデイン,トラマドール,モルヒネ,オキシコドン,フェンタニルのいずれかを使用する。痛みが強度で不安定な場合は経口速放性製剤や持続静注・持続皮下注によるオピオイドを使用する。オピオイドの開始に伴って生じる可能性のある悪心・嘔吐および便秘の対策を検討する。


オピオイドが投与されている患者

 オピオイドが投与されている患者で,持続痛が緩和されていない場合,有効な治療は何か?

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痛みの原因の評価と痛みの評価を行い,原因に応じた対応を行う。疼痛治療としては,オピオイドによる副作用(悪心・嘔吐,眠気など)がない場合は,オピオイドの定期投与量の増量を行う。オピオイドによる副作用がある場合は,副作用の対処をしながらオピオイドの定期投与量を増量するか,または,他のオピオイドへ変更(オピオイドスイッチング)する。鎮痛効果が不十分な場合には,非オピオイド鎮痛薬をオピオイドと併用,他のオピオイドに変更(オピオイドスイッチング),他のオピオイドを追加,オピオイドの投与経路を変更,鎮痛補助薬とオピオイドを併用,または神経ブロックなどを検討する。


 オピオイドが投与されている患者で,突出痛が緩和されていない場合,有効な治療は何か?

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フローチャート

痛みの原因の評価と痛みの評価を行い,原因に応じた対応を行う。痛みが持続痛ではなく突出痛であることを確かめ,予測できる突出痛,予測できない突出痛,および,定時鎮痛薬の切れ目の痛み(end-of-dose failure)に分類する。予測できる突出痛では,誘発する刺激を避け,誘発する刺激の前にレスキュー薬の投与を行う。定時鎮痛薬の切れ目の痛みでは,オピオイドの定期投与量の増量・投与間隔の短縮を行う。いずれも,突出痛に対してはオピオイドのレスキュー薬を投与する。鎮痛効果が不十分な場合は,非オピオイド鎮痛薬をオピオイドと併用,レスキュー薬の増量,オピオイドの定期投与量の増量,または神経ブロックなどを検討する。


  オピオイドによる副作用

悪心・嘔吐

 オピオイドが投与された患者において,悪心・嘔吐が発現した時に有効な治療は何か?

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悪心・嘔吐の原因を評価し,原因に応じた対応を行う。オピオイドによる悪心・嘔吐の場合は,想定される主な機序により第一選択の制吐薬として,ドパミン受容体拮抗薬,消化管蠕動亢進薬,または抗ヒスタミン薬のいずれかをオピオイドと併用する。第一選択の制吐薬が無効であった場合には,オピオイドは継続し,第一選択の制吐薬を2 種類併用するか,または第二選択の制吐薬として,非定型抗精神病薬,フェノチアジン系抗精神病薬,またはセロトニン拮抗薬のいずれかを使用する。あるいはオピオイドスイッチング,または,オピオイドの投与経路の変更(必要に応じて制吐薬を併用)を検討する。効果が不十分な場合,神経ブロックなどによりオピオイドを減量・中止できるか検討する。


便 秘

 オピオイドが投与された患者において,便秘が発現した時に有効な治療は何か?

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便秘の原因を評価し,原因に応じた対応を行う。腸閉塞を除外し,また,宿便を認める場合は経直腸的処置を行う。オピオイドによる便秘の場合は,下剤を投与する。便が硬い場合は浸透圧性下剤を,腸蠕動が低下している場合は大腸刺激性下剤を投与し,十分な効果があるまで増量する。効果が不十分であれば両者を併用,オピオイドスイッチングを検討する。さらに効果が不十分な場合,神経ブロックなどによりオピオイドを減量・中止できるか検討する。


便秘の定義

便秘とは「腸管内容物の通過が遅延・停滞し,排便に困難を伴う状態」を指す。排便の習慣は個人差が大きいため,もともとの排便習慣と比較し,排便回数の低下,便の量の減少や硬さ,残便感,排便の困難感などから判断する。


3
眠 気

 オピオイドが投与された患者において,眠気が発現した時に有効な治療は何か?

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眠気の強度と苦痛の程度を評価する。眠気の原因を評価し,原因に応じた対応を行う。特に鎮痛効果が十分に得られている場合にはオピオイドの減量を検討する。初回投与や増量後の軽度の眠気であれば経過を観察する。オピオイドによる眠気の場合は,眠気に対する薬物療法(精神刺激薬の投与),オピオイドスイッチング,または,投与経路の変更を検討する。効果が不十分な場合,神経ブロックなどによりオピオイドを減量・中止できるか検討する。


せん妄

 オピオイドが投与された患者において,せん妄が発現した時に有効な治療は何か?

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せん妄の原因を評価し,原因に応じた対応を行う。オピオイドによるせん妄の場合は,抗精神病薬の投与,オピオイドスイッチング,あるいはオピオイドの投与経路の変更を行う。効果が不十分な場合,神経ブロックなどによりオピオイドを減量・中止できるか検討する。


せん妄

周囲を認識する意識の清明度が低下し,記憶力,見当識障害,言語能力の障害などの認知機能障害が起こる状態。通常,数時間から数日の短期間に発現し,日内変動が大きい。


  特定の病態による痛みに対する治療

神経障害性疼痛

 がんによる神経障害性疼痛に対する有効な治療は何か?

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痛みの原因の評価と痛みの評価を行い,原因に応じた対応を行う。特に脊髄圧迫症候群が疑われる場合には,評価と対応を行う。疼痛治療としては非オピオイド鎮痛薬・オピオイドを投与する。効果が不十分な場合は,抗けいれん薬,抗うつ薬,抗不整脈薬,NMDA 受容体拮抗薬,コルチコステロイドのなかから,副作用と病態から患者に最も適した鎮痛補助薬を選択して投与する。コルチコステロイドは脊髄圧迫症候群など神経への圧迫や炎症による痛みの場合に検討する。1 種類の鎮痛補助薬を増量しても十分に効果がない場合には,他の鎮痛補助薬への変更や併用,または神経ブロックの適応について専門家に相談する。


神経障害性疼痛

痛覚を伝える神経の直接的な損傷やこれらの神経の疾患に起因する痛み。灼熱痛,電撃痛,痛覚過敏,感覚過敏,アロディニアなどを伴うことがある。難治性で鎮痛補助薬の併用を必要とすることが多い。参照

:痛みの包括的評価

本ガイドラインでいう「痛みの包括的評価」とは,①痛みの原因の評価と②痛みの評価からなる。痛みの原因の評価とは,身体所見や画像検査から痛みの原因を診断することであり,疼痛治療に加えて原因に対する治療が必要かどうかの判断などに役立てることができる。痛みの評価とは,患者の自覚症状としての痛みの強さや生活への影響,治療効果を評価するものであり,これを行うことで,患者にあわせた疼痛治療を計画することができるようになる。参照


骨転移による痛み

 骨転移による痛みに対する有効な治療は何か?

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痛みの原因の評価と痛みの評価を行い,原因に応じた対応を行う。疼痛治療としては,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドを投与する。予測される生命予後を検討したうえでBMA を投与する。神経ブロックの適応について専門家に相談する。


膵臓がんなどによる上腹部の痛み

 膵臓がんなどによる上腹部の痛みに対する有効な治療は何か?

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痛みの原因の評価と痛みの評価を行い,原因に応じた対応を行う。疼痛治療としては,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドを投与する。腹腔神経叢ブロックによって痛みが緩和する可能性があるため,神経ブロックの適応についてなるべく早い時期に専門家に相談する。病態にあわせて鎮痛補助薬を使用する。


胸部の痛み

 胸部の痛みに対する有効な治療は何か?

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痛みの原因の評価と痛みの評価を行い,原因に応じた対応を行う。疼痛治療としては,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドを投与する。硬膜外ブロック,肋間神経ブロック,神経根ブロック,クモ膜下フェノールブロックなどの神経ブロックが有効な場合があるので専門家に相談する。病態にあわせて鎮痛補助薬を使用する。


直腸がんなどによる会陰部の痛み

 直腸がんなどによる会陰部の痛みに対する有効な治療は何か?

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痛みの原因の評価と痛みの評価を行い,原因に応じた対応を行う。疼痛治療としては,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドを投与する。尿路変更・人工肛門などすでに排尿・排便機能が廃絶している場合にはサドルブロックによって鎮痛効果を得ることができる可能性があるので専門家に相談する。このほか,その他の神経ブロック(上下腹神経叢ブロックなど)の適応について専門家に相談する。病態にあわせて鎮痛補助薬を使用する。


:会陰部の痛み

骨盤内臓器の内臓知覚は,腹膜内臓器では交感神経線維に伴走して求心性に胸腰脊髄神経節に入る。腹膜外臓器では副交感神経線維に混じり,第2 から第4 仙骨神経の脊髄神経節に入る。会陰部の知覚は,陰部神経(S2-4)など体性神経の支配を受ける。


悪性腸腰筋症候群による痛み
(腸腰筋へのがんの浸潤・転移に伴って起こる鼠径部・大腿・膝の痛み)

 悪性腸腰筋症候群による痛みに対する有効な治療は何か?

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痛みの原因の評価と痛みの評価を行い,原因に応じた対応を行う。疼痛治療としては,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドを投与する。神経障害性疼痛が認められる場合などには鎮痛補助薬の使用を検討する。腸腰筋の攣縮がみられる場合は,筋弛緩薬を使用する。神経ブロックの適応について,専門家に相談する。


:悪性腸腰筋症候群

腸腰筋内の悪性疾患の存在により起こる鼠径部・大腿・膝の痛み。身体所見として,患側の第1〜4 腰椎神経領域の神経障害,腸腰筋の攣縮を示唆する股関節屈曲固定がみられる。参照


消化管閉塞による痛み

 消化管閉塞による痛みに対する有効な治療は何か?

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痛みの原因の評価と痛みの評価を行い,原因に応じた対応を行う。疼痛治療としては,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドを投与する。消化管分泌抑制薬,コルチコステロイドの投与を行う。